人物撮影のとき、写真の印象を変える要素はたくさんあり、中でもモデルのヘアメイクは重要な要素の一つだと言えるのではないでしょうか。
とはいえ、ストックフォトの制作過程でヘアメイクの影響はどのぐらいのものなのか想像がつきにくく、ヘアメイクさんに整えていただく程度で大丈夫だと考える方が多いかもしれません。
しかしヘアメイク一つで印象を変えることができ、仕上がりもガラッと変えられるのも事実。特にビューティーテーマで撮影をするときはヘアメイクさんの技術にかかっています。
今回、業界の最前線で活躍しているヘアメイクアップアーティストの徳永 舞さんにインタビューをさせていただきました。
インタビューをしたのは弊社クリエイティブディレクターの筑城 俊。PIXTAの撮影で徳永さんにヘアメイクをしていただいたことからヘアメイクの重要性を再認識し、写真との関係性など幅広くお話しました。
【プロフィール】
徳永 舞/ヘアメイクアップアーティスト
Instagram:m_tokutoku
メイク専門学校に在学中に某有名ヘアメイクアップアーティストのアシスタントに就く。2019年から独立し、雑誌のar、MAQUIA、VOCEやアイドルや女優のヘアメイクの実績が豊富。
変化し続けるヘアメイク
筑城:徳永さんと現場をご一緒させていただく度に、僕は年代的に若い世代のメイクに既視感がないこともあるせいか、細かなニュアンスをいつも新鮮に感じています。特に、シャッターを押してみて写真を通して見るモデルさんの印象に「おおっ!」となるんです。
徳永さんは有名なヘアメイクさんに弟子入りされてたと聞きましたが、そういうのも師匠から学んだんですか?
徳永:そうですね、アシスタントに付くと師匠のやり方を見て覚えるので、メイクしている工程や触り方は似ていると思います。
筑城:そもそも徳永さんの師匠はメイク業界にどんな革新を起こしたのですか?
徳永:チークの入れ方の常識を変えた人で、それまでチークは頬から耳あたりまで横長に入れることが正しいとされてきましたが、師匠はチークを目の真下あたりに入れて新しい「可愛い」を作った人なんです。
このチークの入れ方は日本だけではなくアジア圏にも浸透していって、韓国や中国でもチークの入れ方が変わっていきました。
筑城:今でもそういったメイクのニュアンスは残っていますか?
徳永:多少は残っていると思います。
筑城:なるほど!ここ数年で韓国メイクが流行っていて取り入れる人も多いと思いますが、どういう経緯で流行り始めたんでしょうか?
徳永:10年くらい前だとK-POPは流行っていましたが、メイクはまだ流行っていませんでした。日本人は元々丸みのある可愛いらしい感じが好きで、韓国人は面長で綺麗系が好きという傾向があります。今はそれに2000年代のギャルの要素が入ってきていて、新しいスタイルが確立されてたと思います。
肌の作り方でいうと、それまで日本ではとにかく艶肌がよしとされていましたが、韓国メイクの要素が入ってきてセミマットが支持されるようになったりと、変化がありましたね。
NOレタッチな写真が支持されてきている?! メイクと写真のセッション
筑城: 最近の撮影現場ではどんなメイクがおこなわれていますか?
徳永:引き続き韓国メイクもですが、中国メイクの企画もあります。メイクに名前がついていて、甜妹(てんめい)メイク、白湯(さゆ)メイクというのが流行っていて、基本的に一貫して少し赤ちゃんぽい妹感のあるメイクなんです。艶を入れる場所やシェーディングをする場所があり、メリハリを出す骨格メイクですね。
筑城:メイクはしっかりするけれど、仕上がりはナチュラルに寄ってきている感じでしょうか。そういうの写真のトレンドとも似ているかもしれないです。2010年代はフォトショの加工技術をいかに競い合うか、肌の修正をどう入れるかでしたが、ここ数年でヨーロッパではモデルのレタッチをしたらレタッチ表記が必要な国があったりします。知り合いの韓国のカメラマンさんいわく、韓国でもノーレタッチに近い表現が入ってきていると言っていました。過度なレタッチ写真が社会的に批判を受けたこともあり、変わりつつあるようです。
徳永:そうなんですね!でも確かに、K-POPアイドルの写真を見ても意外とレタッチが入っていなかったりしますね。
最近聞いて面白いなと思ったのが、日本のプリクラ機はめっちゃめっちゃ加工されるじゃないですか。日本にも韓国のプリクラ機が入ってきていて、韓国のプリクラ機はすごくいいカメラが内蔵されて、あとはライティングだけで加工はされないらしいのです。ライティングでナチュラルに盛れるということで流行っているみたいですよ。
筑城:そうなんですね!若い世代では加工が与える悪影響を認識していたり、自然でかつニュアンスのある写真が好まれるのかもしれないですね。
写真とメイクそれぞれの流行りがリンクしながら雑誌では発信されていくと思うのですが、徳永さんがやられている雑誌の現場では写真のクリエイティブにメイクを寄せていくのか、それともメイクに対して撮り方を決めていくんですか?
徳永:arはメイク企画が多いのでメイク主導です。「このメイクの肌感はこうだから、こうして欲しい」と編集さんがディレクションしているんです。編集者の理想像があって、スタッフがそれに合わせて作り上げていく感じです。
筑城:なるほど。一方では写真が主導でメイクをそれに合わせていかなきゃいけない場面もありますよね。そういう時ってリクエストに答えつつ、自分らしさとか介在意義とかメイクのニュアンスを入れ込んでいったりするんですか?
徳永:カメラマンさんによっても違いますが、ナチュラルな雰囲気の時は肌のツヤ感が出過ぎるとそこだけすっぴんっぽくなってしまうので、カメラマンさんの撮り方に合わせていきます。
筑城:カメラマンが撮っている最中、写真はいいけどメイクが出ていなくてしっくりこない時ってありますか?
徳永:結構あります(笑)。でもそれがメイクの企画じゃなければ特に何も言わないです。
ストロボで撮るとピンクがオレンジっぽく出たり、オレンジが赤っぽく出たりするんです。そういう時にめちゃくちゃ難しいなと思いますね。肌のベースを仕込んでいないと血管が透けて赤みが強くなってしまうので。
筑城:それだけ色んな現場を見ていると、「この撮り方だとこんな感じに写るんだろうな」って想像できたりするんですか?
徳永:ライティングに詳しいわけじゃないですけど、ストロボ1灯のときは赤みがでやすいなとか、傘や紗幕がある時は柔らかくなるからメイクの色が出るなとか思います。
メイクは自然光が一番いいです!
筑城:ストロボの型やカメラの色温度の設定によっても変わってきたりもしますしね。撮影中はめちゃくちゃ色んなことを考えてらっしゃるんですね!
徳永:色々考えています!なので、メイクルームで80%まで仕上げていって、カメラ前で調整して100%に仕上げてます。
筑城:ストック撮影だとメイクのオーダーがわりとざっくりなんですが、雑誌や広告だと事前の打ち合わせで撮り方の説明やメイクの仕上げのオーダーは明確ですか?
徳永:そうですね、ビューティーの撮影だと綿密な打ち合わせがありますけど、ファッションの撮影だとないです。
筑城:ストックフォトのビューティー撮影はまだまだやれることがいっぱいあると思っているんです。ヘアメイクさんのエッセンスを入れてくことでビジュアルのパターンも増えていくんじゃないかと思っていて! 僕も最初に徳永さんと一緒にお仕事したとき、どんなヘアメイクがいいのか聞きまくっていましたよね(笑)。
徳永:確かにそうでしたね!「今の流行りはこんな感じ」とか「こう仕上げると可愛くなると思う」っていうのを共有して作っていましたね。小道具を使って写真にアクセントをつけるのは雑誌の現場でもよくあります!
ストックフォト市場におけるヘアメイク企画の可能性
筑城:ちなみに徳永さんの中でストックフォトってどんなイメージがありますか?
徳永:テレビでよく出てくるのを見るんですが、タンクトップを着て、顔に手を当ててるとか。メイクのディティールを写した写真よりもシチュエーションが全面に出ているイメージが強いです。
筑城:そうですね、ストックフォトだとシチュエーション=市場となっていて、どんなシチュエーションを選択するかで撮影の企画を立てていくのが流れとしてあります。
ストックフォトではメイク企画をがっつりやっているイメージがないですが、メイクもビジネス企画やライフスタイル企画などと並列して一つの企画になりそうだなと思います。
徳永:以前筑城さんと撮影で撮ったものがバラエティショップやドラックストアのコスメコーナーのポップで使われているのを良く見るので、需要ありそうだなと思いました!
筑城:ぜひメイク企画の撮影やりたいですね!ちなみに、今後のメイクはどんな風になっていくと思いますか?
徳永:韓国や中国のクールビューティは少し入れつつも、日本人が好きな「可愛い」の要素を入れた割としっかりめのメイクだと思います。
今の若い子たちは目元のメイクが濃いめで、少しギャルなんです。その子たちがもう少し大人になったらそれが「可愛い」の定義になるんじゃないかと。
今は平成初期〜2012年くらいのスタイルが流行っていて、メイクもファッションも戻ってきているんですよ。
筑城:なるほど、リバイバルですか。今と真逆の話で、どうしても10年前の写真見ると古く見えるじゃないですか。数年は違和感なく売れ続けるヘアメイクってあるのか?って考えたことがあるんですが、どうなんでしょう(笑)。
徳永:難しいですね(笑)。数年は違和感ないものと考えると、眉毛の形とヘアスタイル、特に前髪が重要だと思います。メンズも同様にヘアスタイルのトレンドはどんどん変わっていくので、どうしてもトレンドを取り入れすぎると時代を感じやすくなると思います。
筑城:そうですよね、和装だと可能かもしれませんね!
ヘアメイクから見えるアングルとフレーミング

筑城:話変わりますが、以前撮影のときに徳永さんがフレーミングのアドバイスをしてくれてそれがすごく嬉しかったんです。雑誌の撮影が多い徳永さんだと、おさまりの良いと感じるフレーミングの感覚ってあったりしますか?
徳永:めっちゃくちゃあります(笑)。おでこを切って撮った方が眉から口元のメイクが可愛く見えるときもあれば、俯瞰から撮ったら目元に影が入って嫌だなとかというときがあります。角度変えたらラメのキラキラ見えるなとか。
筑城:なるほど!僕は今までディレクションしてきた中で、メイクを良く見せるためのフレーミングという意識は持ってこなかったので、そういうのめっちゃ面白いです!自分がクリエイターだったらぜひ言って欲しいですね。
徳永:私は後ろの背景の光込みで一枚の写真になると思っていて、光の状態に応じて切ったり寄ったりして撮ると可愛さが増すなと思います。
もしも私がストックフォトを作るなら…
筑城:もしも徳永さんが自由にヘアメイクやるならどんなことやってみたいですか?
徳永:パーツでピンクのカラーマスカラとか、唇に花や砂糖をパラパラと載せるとか。パーツ×素材の組み合わせを撮ってみたいです。
それをカメラマンさんに相談したら、質感をアートっぽく撮るのが難しいと言われちゃいました。
筑城:たしかに…パーツってついでに撮影できるものでもなく、質感を出して撮るのってすごく難しいんですよね!そのパーツを撮る用にライティングを組まなければならないのですが、面白いですね!ストックフォトって汎用性が高い写真(モデルが誰だかわからない)が売れることもあったりするので、目や口元に寄って人物が抽象的になる点もマーケットとの親和性が高いと思います。
あとがき
最先端で活躍されている徳永さんのお話を聞き、ヘアメイクの移り変わりと技術の進化が興味深く、ストックフォトにおいてもヘアメイクの表現の追求に挑戦する価値があるのではと思いました。
対談の中で特に興味を持ったのは、ヘアメイクさんだからこそ見えてくるアングルとフレーミングで、こういったエキスパートの視点を取り入れた写真を制作することで、唯一無二の作品に仕上がるのではないのでしょうか。
そこで、モデルへ徳永さんのヘアメイクをしていただき人物ストックフォト撮影会を実施する予定でおります。詳細が決まり次第PIXTAガイドでご案内しますので、ご確認いただけると幸いです。