【ビジュアルで見る日本社会の20年】第2弾:ストックフォトの「シニア像」はどう変わったか?

写真・イラスト・動画・音楽素材のマーケットプレイスPIXTAは、2026年5月31日にサービス開始20周年を迎えました!
保有する累計1億点超の膨大なビジュアルデータから、日本社会の変化を読み解く特別連載を開始いたしました。

【ビジュアルで見る日本社会の20年】第1弾ストックフォトの「旅行像」はどう変わったか?に続くテーマは「シニア」。

敬老の日を前に、PIXTAが20年分の販売データを分析したところ、売れ筋のシニア素材は過去20年で大きく変貌していたことが明らかになりました。孫を囲む祖父母、公園を散歩する老夫婦——かつての定番イメージはすでに過去のもの。現在の売れ筋は、スマートフォンを手にする70代、職場で活躍するシニア、ヨガやボウリングで体を動かす高齢者、そして家族の一員としてではなく一人の個人として写るシニアへと様変わりしています。ストックフォトの売れ筋は時代の写し鏡。この変化は、社会が抱くシニア像そのものが塗り変わったことを示しています。

ビジュアル&注目ワード分析:20年の変遷

~2010年:「絵に描いたような幸せな老後」の時代

売れ筋:「幸せな老後」を演出した広告写真

この時代の売れ筋が描いていたのは、よく晴れた公園を歩く夫婦、孫を囲む三世代家族、ゴルフ場や花壇で微笑む高齢者——絵に描いたような幸せな老後を演出したポートレートです。旅行・保険・住宅など広告用途が中心で、高齢者は豊かな消費者、レジャーを楽しむ人として描かれ、就労・デジタル活用といったテーマは画面に登場しません。シニアの多くは夫婦セットや家族の一員として登場し、一人の個人としてカメラに向かうポートレートはほとんど見られませんでした。運動の描写もウォーキングやゴルフ程度にとどまり、服装はベージュやグレーを基調とした淡く落ち着いた色合いが主流でした。

当時の社会:定年=老後のスタートだった時代

2007~2008年に団塊の世代が一斉に定年を迎え、「シニアマーケット」という言葉が広告業界に定着しました。退職後は旅行・趣味・孫を楽しむという老後のロールモデルが広く共有されており、シニアは穏やかな老後をゆっくり楽しむ存在として描かれていました。

注目キーワード

団塊の世代、定年退職、シニアマーケット、悠々自適、三世代

2011~2020年:大きな変化のなかった「安定期」

この10年間、シニア素材の表現は本質的には変わりませんでした。屋外での活動的な夫婦・家族の構図、ゴルフ・ウォーキング・ガーデニングといったテーマが引き続き主流。2016年以降に「アクティブシニア」という言葉が広まり、表情や服装がやや若々しくなるなど少しずつ変化はありましたが、就労や社会参加、個人としての表現をテーマにした素材はまだ少ない状態でした。

2021~2025年:「支えられる人」から「自分の人生を生きる人」へ

売れ筋:シニア素材は『余暇』から『日常』へ

現在の売れ筋シニア素材が描く世界は、20年前とは別物です。スマートフォンやPCを当たり前に使いこなすシニア、職場で活躍するシニア、ヨガやボウリングで体を動かすシニア、前向きにリハビリに取り組むシニア、そして家族や夫婦のセットからではなく一人の個人として写るシニア——活動の幅もシーンの多様さも、かつてとは比べものになりません。共通するのは、高齢者が消費者やケアの受け手としてではなく、社会の中で役割を持つ生活者として描かれているという点です。

変化を示す6つのデータ

  • ①「就労・社会参加」テーマが急増 定年後に旅行・趣味を楽しむシニア像に代わり、働く・学ぶ・地域に参加するシニアの素材が増加しました。「人生100年時代」「生涯現役」という言葉が示すように、定年がゴールではなくなった社会の変化がビジュアルにも表れています。
  • ②スマホを使うシニアの描写が急増 ~2010年代にはほぼ皆無だったテクノロジーを使うシニアの描写が、現在は定番カテゴリに。スマートフォン・タブレット・PCを手にするシニアの素材は、PIXTAの販売データでも直近5年で顕著に増加しています。
  • ③ファッションが「淡い色合い」から「おしゃれ」へ かつてはベージュ・グレー系の淡い服装が定番だったシニアの描写が、現在は鮮やかな色使いやスタイリッシュなコーディネートへと様変わりしました。現在の60~70代は、an・anやnon-no、Popeyeでファッションを楽しみ、バブル期の消費文化の全盛を20代で経験した世代。おしゃれを楽しむ感性を持ち続けてきた世代がシニアになったことが、ビジュアルの変化にも表れています。
  • ④介護・医療の描き方が「ケア」から「自立支援」へ PIXTAが2014年・2024年の介護写真売れ筋を比較分析したところ、10年前は優しさ・柔らかさを伝える写真が主流だったのに対し、現在は明るさ・清潔感・前向きさへと明確にシフト。高齢者を世話される人としてではなく、自立して生きる人として描く視点が浸透しています。
  • ⑤運動・スポーツの種類が多様化 ~2010年代の運動描写はウォーキングとゴルフがほぼすべてでしたが、現在はヨガ・体操・ストレッチといった室内フィットネス、ボウリングなど、健康のために動くシーンの種類が明確に広がっています。運動が特別な健康法ではなく、日常の楽しみとして描かれるようになった点も、シニア像の変化を象徴しています。
  • ⑥「家族の一員」から「一人の個人」へ PIXTAの検索キーワード分析でも、この変化は裏付けられています。シニア関連検索と一緒に使われる共起語のうち「家族」は2014年の11位から2024年には47位まで後退し、代わって「シニア同士」「高齢者だけ」「シニアのみ」といった、人物構成をシニアだけに絞り込むキーワードが新たに上位へ登場しました。性別で見ても、シニア検索1000回あたりの「おじいちゃん」の出現数は10回→18回(1.8倍)、「おばあちゃん」は14回→29回(2.1倍)と、男女ともに個人としての高齢者を指定する検索が伸びています。グレイヘアをおしゃれとして見せる写真や、家族・夫婦のセットではなく一人で写るポートレートが増えているのは、女性・男性どちらのシニアにも共通する変化です。この転換の背景には、介護・医療・行政分野でシニアだけの構成を必要とする実用素材(施設案内、行政パンフレット、医療系コンテンツなど)の需要拡大があると見られます。④で見た、ケアされる側から自立支援への意識変化と、同じ現場から生まれている動きです。シニアを家族の背景の一部としてではなく、単独で扱うべき対象として位置づける実務上の需要そのものが、一人でも成立する個人としてシニアを見る意識が現場に広がっていることの表れだと言えます。「誰かに付き添われる存在」から「一人でも成立する個人」へ、性別を問わないこの転換は、他のどのデータよりも大きな意味を持つかもしれません。

当時の社会:コロナ・2025年問題・デジタル化が重なった転換点

コロナ禍(2020~2022年)を経てシニアのデジタル活用が加速し、2025年に団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」が現実となりました。介護の需要が急増する一方で、高齢者が社会で活躍し続けることへの期待も高まり、シニアに対する社会の見方が大きく変わった時代です。

注目キーワード

2025年問題、人生100年時代、デジタル活用、自立支援、生涯現役、グレイヘア、ソロ活

~20102021~2025
シニア像家族に囲まれた老後の幸せ就労・医療・介護・社会参加
活動内容ゴルフ・旅行・孫との団らん仕事・多様なスポーツ・デジタル活用
テクノロジーほぼ登場しないスマホ・PCが日常の道具として登場
医療・介護の描き方ケアされる受け身な存在自立・前向き・リハビリ
人物構成夫婦・家族の一員として登場男女ともに一人の個人として登場
運動・スポーツウォーキング・ゴルフのみヨガ・体操・ボウリングなど多様化
ファッションベージュ・グレー系の淡い色合いカラフル・スタイリッシュ・自分らしく
利用場面広告・パンフレットの人物写真WEB記事・SNS・行政資料・説明素材

ビジュアルのシニア像、アップデートはできているか

PIXTAのデータが示す変化は、「売れる素材が変わった」という市場の話にとどまりません。

売れる素材とは、「使われる素材」のことです。つまり今、企業・メディア・行政の発信物の中で、シニアの描かれ方が変わっているということでもあります。裏を返せば、古いシニア像をそのまま使い続けているコンテンツは、実際の高齢者の姿とずれてきているとも言えます。

かつてのシニア素材は、大きく二つに分かれていました。旅行やゴルフを楽しむ悠々自適な老後か、介護・医療の場で世話を受ける姿か。今の売れ筋には、そのどちらでもないシニアが並んでいます——職場で働く、スマホで調べ物をする、ヨガやボウリングで体を動かす、家族の枠を離れて一人で写る。余暇か介護かという二択の外側に、シニアの姿が広がりました。敬老の日前後に増えるシニア向けのコンテンツも、例外ではありません。

ストック素材の売れ筋が映し出す変化は、発信者側が抱く見せ方の意識の変化であると同時に、受け手が抱く見られ方の意識の変化でもあります。

次のシニア像はどこへ向かうのか

活動するシニア、テクノロジーを使いこなすシニア、一人で主体的に生きるシニアの描写が当たり前になった今、次の変化はどこで起きるでしょうか。

余暇か介護かという二択を超え、シニアの描かれ方はここ数年で大きく広がりました。ただ、現実のシニアの姿はさらに多様です。異世代と一緒に働くシニア、クリエイターとして発信するシニア、ひとりを楽しむシニア——ビジュアルがリアルに追いつこうとする動きは、これからますます必要とされていくでしょう。

さいごに

本プロジェクトで扱うデータは、次世代のAI開発を支える「文化的多様性の基盤」としての側面を持っています。

  • タグの解像度と日本文脈:単に「高齢者」という分類ではなく、「アクティブシニア」「ネオシニア」「自立支援」といった、日本市場特有の詳細なメタデータを付与し、文脈を理解する精度の高いAI学習を可能にします。
  • クリーンな学習ソース:すべての素材は適切な権利処理(モデルリリース等)がなされており、AI学習における倫理的かつクリーンなソースであることを保証します。
  • 概念の可視化:「生涯現役」や「一人の個人としてのシニア」など、数値化しにくい日本的文脈を、豊富なデータによって体系化しています。

ピクスタは、「ストックフォト企業」から「日本文化のデータアーカイブ企業」へとその役割を拡大し、ビジュアルデータの価値を”文化資産”として再定義してまいります。

本連載では、今後も様々な切り口で、1億点以上のコンテンツから時代を振り返っていきます。どうぞお楽しみに。

サービス開始20周年記念コンテンツ